Open Heart〜密やかに たおやかに〜


会社でのシュウちゃんは、クールで隙がない。社員には切れ者の課長だと思われている。

プライベートは、かなり甘々で不器用なのだが、そんなことは、おくびにも出さないのがシュウちゃんの凄いところだ。

シュウちゃんの凄いところは、他にもある。実を言うと、シュウちゃんは、この会社の社長の息子でもあったりする。

それこそが私の悩みの種だ。シュウちゃんは、一向に気にしてないようだが、私は婚約した今でも大いに気にしている。

身分の差みたいな部分は、本当に大丈夫なんだろうか?

一部上場企業の社長の次男と、小さな町工場に勤める平社員の娘との恋愛だ。

どう考えてみても身分不相応な恋愛には違いない。

だから、シュウちゃんが一部上場企業の社長の次男だと知った時は、相当ショックだった。

ドラマや映画の見過ぎかもしれないが、いくら好きになっても、きっと結婚は出来ないかもしれないなと諦めてさえいた。

だが、現実は大幅に違った。

シュウちゃんのご両親は、意外にも私を認めてくれ、あっさり受け入れてくれたのだ。
結婚もしてもいいと祝福までしてくれた。

だけど、そこにはやはり条件があった。

その条件とは『結婚は、1年先にしてほしい』ってことだ。シュウちゃんのお父さん、つまり社長にそう言われたのだ。

理由は、半年後に社長は、主だった業務から退き名ばかりの会長に就任予定だという。それに伴い現在は部長をしている長男の雅彦さんが、社長に就任する。そして、シュウちゃんは、副社長になる。

兄弟で力を合わせ会社を運営していけるようになってほしい。それこそが父親であり社長としての生涯の願いでもあると言われた。

だから、出来ることなら、会社がある程度落ち着いてから結婚式を挙げて欲しいと頼まれたのだ。

話し合いをした結果、社長の意向をくんで私達は結婚を1年先に延ばしたのだ。

でも、その前に婚約だけはしておきたいとシュウちゃんが社長にお願いしてくれ、内々で婚約式は済ませた。

結婚したら仕事は辞めるつもりだが、今はまだ働いていたい。でも、将来の副社長の嫁だと知れれば社内で仕事がやりづらくなるに決まっている。だから、結婚式を挙げるまでの間、私達の仲は、外部に伏せることになっている。

要するに、私はシュウちゃんという立派なフィアンセがいてもむやみに口外出来ない。具体的な彼氏の話は、誰にも話せない。つまり、話せないような恋愛をしていることになる。

ネックレスにぶら下げているデザインリングにブラウスの上から、そっと触れてみる。

これは、確かに存在するシュウちゃんとの婚約の証しだ。

給湯室でカップを準備しなから、自然と私は小さく息を吐いていた。
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