Open Heart〜密やかに たおやかに〜


「必要ありません」
動揺していないように見せるために、はっきりと答えた。

山田課長は、かがむのをやめて念押しするように聞いてきた。
「王子のことだぞ。いーんだな?」

「いいです。シュウちゃんのことは、山田課長より私の方がよく知ってますから」

「ふん、それはどうかな?」
鼻で笑い私の肩から手を離して、山田課長は座っていた場所へ戻っていく。


山田課長の言うことは本当のことだ。

簡単に裏切るような女。
だから、何も言い返せなかった。私はお金のためにシュウちゃんを裏切るのだ。決して簡単じゃなかった。シュウちゃんを諦めること。

でも、それしか他に道が無かった。

山田課長は椅子に座り、リボンを器用に結ぶ。
「くだらなさすぎるんだよ。あんたは王子を裏切ると思ってるだろうが、元々、そこに愛は存在しなかったんだ。王子が町娘に本気になるわけないだろ? 初めから、あんたとは本気じゃない。それは、これからの王子を見てればわかるはずだ」


そんなはずは無い。

いくらシュウちゃんが金持ちだとしても、私とは本気の恋愛をしていたはずだ。

シュウちゃんの気持ちを疑う余地は、どこにもない。お互いに十分に思い合っていた。
誰よりも愛していたし、愛されていた。

私とシュウちゃんのことが、他人である山田課長にわかる訳がない。わかったように言って欲しくない。

シュウちゃんに関して、私だけが知らないことなんかある訳がない。嘘だ。山田課長は、意地悪な人だ。私をこらしめて楽しんでるだけだ。

そう思っていた。
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