Open Heart〜密やかに たおやかに〜
どうにか作業を終えて、私と山田課長は店を出た。
車の近くにつき、助手席の方へ周る。
ふと、山田課長の視線を感じて顔を上げると、車体を挟んだ向こう側にいる山田課長は私を見ていた。
「やっぱり、あんたは町娘クラスだよな」
改めて私を眺めた山田課長の感想らしかった。
「……」
なんと蔑まれても、馬鹿にされても私は傷ついたりしない。
シュウちゃんがこれから受ける傷に比べたら、私の傷なんか小さいものだ。
車に乗りシートベルトをしめる。
「あの、いつシュウちゃんに私と山田課長が付き合っていたっていう話をするんですか?」
「話はしない。少しずつ気づかせる」
少しずつなんて、なんか地味に嫌なやり方だ。
「言った方が早い感じしますけど」
「言ってすぐに信じるくらいに王子は馬鹿なのか? 1年も2股かけられてて、今まで知らなかったって設定だから、馬鹿かもな」
「シュウちゃんのことは、悪く言わないで下さい」
さっきといい、今といい、シュウちゃんを馬鹿にするのは許さない。
山田課長を強く睨んだ。
こんな人と演技とはいえ、1年も付き合ってたなんてありえない。1日でも嫌だ。
「俺、あんたみたいな女ってキライ」
どうやら、私と同じ感想を山田課長も持ったようだ。
「私もです」
「ふん、上司に向かって随分と小生意気だな」
「すいません。この件が済んだら、私は会社を辞めるつもりです。だから、山田課長から何を言われても怖くありません」
シュウちゃんを裏切るのというのに、同じ会社に勤めてはいられない。別れたあともずっと一緒に働いていられるほど、私の心臓に剛毛は生えていないようだ。