闇喰いに魔法のキス



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《ミラside》



無謀にも、最上階から窓の外に飛び降りたギルを追って、窓から外を見下ろすと

光に包まれたギルは、一瞬で姿を消した。



…!

“瞬間移動魔法”…!



ギルは、“研究所跡地”に向かった。

今から追えば、奴を捕まえられる。



その時、私の脳裏に以前本部で見た、ある資料のことが浮かんだ。


それは、“酒場にギルが入っていくのを見た”というタレコミがあった今朝

ガロア警部と見た、酒場のバーテンダー
“レイ=グライツ”の素性に関する資料だ。


ギルを追う上で捜査線上に上がった者は、すべて素性を調べることになっている。



私とガロア警部は、彼の経歴を見て、言葉を失った。



…“レイ=グライツ”は、“モートン=グライツ”の養子として記載されていた。


十歳前後で養子になったというデータはあるが、それまでの情報は何一つなかった。


どこで生まれ、育ったのか。


モートンの養子となる前の彼のデータはサンクヘレナ外の範囲まで広げて調べても出てこなかった。


出身地どころか、親や兄弟の名前すら不明。


いわば、“レイ=グライツ”は、この世に産まれていない存在だった。



…ギルは闇。

それは確かな真実だ。



でも、レイ君がギルだと知った今

迷いが生まれた自分がいる。



彼が、何のために“闇喰い”となり、ギルとして生きているのか。


それはいくら考えてもわからない。



私は、ガロア警部へと視線を向けた。



彼も、眉間に深いシワを刻んで、何かを深く考え込んでいる。


去り際に放ったギルの言葉から、並々ならぬ意志を感じた。


…タリズマンの使命は、闇から人々の平和を守ること。


私たちは、一体、今、何をするべきなのだろうか。



一瞬、“情報屋”の顔がよぎった。



どくん…!



心臓が鈍く音を立て、体が震える。



…彼はレイ君がギルだと知っていて、本部の回線を乗っ取って、助けを求めてきた。


彼がギルと繋がっていたという証拠だ。



これで、やっと、彼を捕まえられる。



彼を、“黒き狼”から解放することが出来る。



…でも……。



ちらり、と携帯を見るが、不在着信も、メールも届いてない。



…あいつ…無事よね……?



その時

静まり返った部屋に、ガロア警部の低い声が響いた。



「ミラ。

…今から言う指示を、タリズマンの全隊員に連絡しろ。」



…!


私は、無言で頷く。


すると、ガロア警部は、思いもよらない言葉を口にした。



「全隊員、本部周辺の黒マント逮捕に回れ。

…一人たりとも、“研究所跡地”の幹部の元に行かせるな。以上!」






それは、ギルを追わないと同時に

ギルの敵を減らすための指示だった。



しかし、ガロア警部の瞳には、強い信念が宿ったままだ。



…何を考えているの?

この上司は……。



私が、通信機器を手に取り、指示を出そうとした

その時だった。



「ミラ。」


「!…はい。」



名前を呼ばれ、手を止める。


すると、ガロア警部は手に持っていたギルの呪符を私に差し出して言葉を続けた。



「お前には、“特別任務”を任せる。」



「え……?」




《ミラside終》


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