箱庭センチメンタル



突如として押し寄せる、身震い。


大げさな言い回しだけれど、命拾いした。



これ以上、余計な私情を増やすわけにはいかない。


今抱えているこれも、お祖母様が戻ってくるまでに鎮めなければ。


ぐ、と筆を握り和紙を見つめる。




さて、何を書こう。


目を閉じて、漢字一文字を思い浮かべる。


悩んでいても仕方がないだろう。



墨で筆をたっぷり湿らせて、軽く落とす。


さしあたり、直感で文字を書き出してみた。


……こんなものだろうか。


「なかなかの出来栄えですね」


自負できる程度には上手く書けていると思う。


お祖母様に目を通してもらうのも良いかもしれない。



先ほどまで騒めいていた胸の内はすっかり鳴りを潜めて、多少の余裕さえ生まれていた。


これなら心配はいらないだろう。


< 26 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop