箱庭センチメンタル
例年、自室から出る許可は降りなかったため、尚更珍しかった。
実際に顔を合わせるとなると、久方振りのことで、年数にして軽く2桁はいっているだろうか。
「貴方が例の侵入者ですね。屋敷中、とんだ騒ぎになっているようです」
「侵入者、ねえ……。ただ足を滑らせただけなんだけどな」
頬を軽く掻きながら、困ったように笑う彼に悪気はない。
少なくとも、意図的に入り込んだわけではなさそうだ。
「と、仰いますと?」
「あー、うん。こいつがさ、塀の上に登って降りられなくなってたから、どうにかしたいなー……なんて」
言いながら、彼は先程から妙に膨らみのあるパーカーのチャックを開けた。
「ニャァ」
顔を覗かせたのは、まだ体も小さな黒い子猫だった。