箱庭センチメンタル
先ほどの女中に引き渡せば良かったものを、なぜ庇ってしまったのだろう。
それこそ、立場的に見ても私が女中を救済することはあれども、見ず知らずの人物を匿う理由など皆無だ。
何故、何故……と、考えても答えは出そうになかった。
「あ、そういえば名前聞いてなかった」
「いえ、私は別に……」
「っと……人に名前を聞くならまず自分から、ってな。
俺は桜木真也。地元の高校に通う17歳。動物全般好きだけど、何でかいつも嫌われる。友達は多い方だと思う。『逃げられれば追う』がモットー」
聞いてもいないのに。
無関係の間柄だというのに。
彼の人柄ゆえか、どうも聞く者を巻き込む魅力があるようだ。
そうでなければ……
「追うから逃げられるのではありませんか?」
「え、あれ。それは考えたことなかったな」
「……逃げれば追う。それでも逃げられてしまったら、どうなさるおつもりですか?」
「ん?そうだなあ……」
……そうでなければ。
ここまで私が深追いする道理はないのだ。