箱庭センチメンタル
「お名前は、どういった字を書くのですか?」
「えっとな、桜の木って書いて“桜木”、真実の真に也(ナリ)で“真也”だよ」
「とても、綺麗ですね」
「ん?どこにでもある名前だと思うけど」
彼は不思議そうに言うけれど、私はそうは思わない。
さりげなく、直前まで書いていた紙を片付けを装い隠す。
漢字一文字——“真”。
恐らくそれは、私に最も欠如しているであろう。
何が嘘か、何が真か。
私には遠に知り得ない事実。
分からなくなってしまった、自分のことも他人のことも。
本音を言ってしまえば戻れない。
それでも私は、心のどこかで欲しているのかもしれない。
自分に足りない、何かを。
「あの、そろそろお帰りになられた方が良いのでは?」
「ん?」
「捜索が継続中であれば、ここも安全とは言い難いかと」
「あ、やば。そうだよな、うん」