箱庭センチメンタル
「俺は雛李に名前で呼ばれたい!」
考えている間に何が起きたのか。
突拍子もなく言われ、何の話をしていたのかを慌てて脳から引っ張り出す。
「では、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「んー、普通に名前でいいよ。友達にはシンって呼ばれてるけど」
「ご友人、ですか?」
少し、意外に思ってしまった。
彼はそれを、そこにいて当たり前の存在だと認めている。
過去、私にもそれらしい関係に発展する相手は幾人かいたけれど、どれもお祖母様を中継してでなくては言葉を交わすこともなかった。
結果、その誰もがお祖母様の眼鏡にかなうことはなく、気付けば縁を切られていた。
平たく言えば、身分不相応だったために。
菊ノ宮家の財力は政財界でも群を抜いている。
そこで常に示されるのが“評価”だ。
付き合う相手は慎重に選び、そこに私情を挟むことはない。