S系御曹司と政略結婚!?
「すいません」
「ハッ、謝るしか能がねぇの?馬鹿のひとつ覚えってこの事だな」
無駄に長い足を組み替えながら、遠慮のかけらもなく私を蔑むヤツに目眩を覚えた。
馬鹿のひとつ覚えですか、そうですか。……ふざけんな、このインテリ!
なんて反論出来ればどれだけスッキリするのだろう。
イライラで手が震え始めた私はどうにか堪えるために俯き、視界と思考からヤツを一切遮ることにした。
それで逃がしてくれるほど甘くない。このS気質には本当に優しさが欠如している。
化けの皮が剥がれたヤツから罵倒されまくりの私は、ひたすら黙り込んでじっと耐えていた。
ここまで極端な人間は、きっとヤツだけだ!
しかし、ひとつでも言い返せば、百にも千にもなって報復されるのは目に見えている。
幾ら学習能力がなくてもそれ位は分かるから、馬になった気持ちで聞き流すのが得策だ。
ふと視線を感じて顔を上げたところ、バッグミラー越しにこちらに視線が送られていた。
その相手とは私たちが勤務中お世話になる専属運転手、西川(ニシカワ)さんだ。
ひくつく顔に愛想笑いを浮かべる私に対して、彼は苦笑混じりで哀れみの視線を返してくれた。
ねぇ、西川さん……。その視線が余計に切なくなるんですが、どうしろと……?
ヤツが仮面を剥いで素を見せるのは、会社ではおそらく私と西川さんだけ。つまり、悲しい同士ということ。
重役の運転手として、車内の出来事や会話には守秘義務が発生している。
弱みに遠慮なしでそれに漬け込むヤツは、ここも容赦なく私を虐められる絶好の機会としているらしい。
確かに西川さんは巻き込まれて可哀想だけど、一番の被害者は私でしょう?
迷惑かけてるのは分かってる。でも、何でこんなに嫌われなきゃいけないの……。
いや、もう怒られすぎて感覚麻痺してきたのかも。毎度のことだとか諦めてる私もちょっとおかしい。
ただただ苦痛な時間も、目的地の到着によって終焉を迎える。車のエンジンがストップするとホッとするのが日常だ。
集中砲火を浴びせられるより、経営の勉強をしていた方がどれだけ楽か。……精神的苦痛でいつか訴えてやる。
とりあえず超がつくほど厳しい神野さんに、ここまで嫌われている理由をぜひとも聞かせて欲しい。