S系御曹司と政略結婚!?
「すみません、自宅まで向かって貰えますか」
「かしこまりました――」
上向き加減でおしぼりを顔に乗せている私がお願いすると、明らかに動揺した声で了承された。
あれだけ大泣きしたし、その理由とかすごく気になるよね?それもまだ就業時間中に自宅へ向かえとか言うのだから。
いつも助けて貰っているのに、まだ話すことは出来ない。心の中で彼に謝りながら、到着までに少しは目元の腫れが引くのを願った。
暫くして自宅に着くと、私を降ろした西川さんの車はすぐに走り去っていった。
ずかずかと正面玄関の前に向かった私は、チャイムも鳴らすことなく玄関ドアを開き、また勢い任せに扉を閉めた。
これくらい威勢がよくなきゃね、なんて自らを励ましていると、物音に気付いた由紀子さんが姿をみせた。
「まあお嬢様、こんな時間にどうされました?」
仕事に関して手厳しい身内とヤツのお陰で、今まで一日も休んだことが無い。皆勤賞の私がこの時間に戻るのは初で、由紀子さんの驚きも当然だ。
「ごめんなさい由紀子さん、私は今日限りで家を出ます」
「はっ!?」
質問の答えにもならない予期せぬ言葉に、珍しく彼女は目を見開き、唖然としている。
「では、出て行く準備があるので」
その場を離れると走って私室を目指す。置き去りにした大好きな由紀子さんを思いやれる余裕もないほど、今はそのことに囚われていた。