S系御曹司と政略結婚!?


ふたりで副社長室を出ると、重役用エレベーターに乗り込んだ。

そこで進出が決定している開発途上国の名前を失念していたことに気づく。

目前に迫ったことを今頃考えるから頓珍漢だ、と言われるのだろう。


「ねー、実紅」

「仕事中は井川とお呼び下さいませ!」

キッと私を睨みつけた彼女はやけに低い声で詰ってきた。

これが“必殺仕事人・実紅”に変わった証拠?というか、人格まで変わってるよね?


「分かったわ井川さん、例の国名って覚えてないかな?」

「……すみません、急いで調べて参ります」

先ほどとは打って変わり、顔面蒼白で涙ぐんでいる。

「いっ、いいわよ!社長に打合せで確かめるから」

実紅をフォローするつもりだった言葉が自分に跳ね返ってきた。……私こそ勉強と確認が足りないわ、と。


目的階でエレベーターを降りた私たちは、社長室のあるフロアに到着。

あれから自己嫌悪に陥っていた私たちは無言で歩いていて。——この先に待つものを考える余裕さえなかった。


やがて社長室を目前にしたところで、あらぬ光景に出くわす。

どうして人って簡単に裏切れるの……?と、その場を見つめながら。


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