エースとprincess
課長を探しに喫煙所に向かったときのことだ。遠目にもその姿がないとわかり、瑛主くんが脱臭機を囲む輪から少し離れたところに立っていたので、課長の行き先を知らないかと尋ねようとした。
「同じ職場の女に告白とか、自殺行為だろ」
私は耳を疑った。集まっているのは隣の課の二年か三年上の先輩社員だ。年齢の近い同士、ざっくばらんにしゃべっているのをよく見かける。瑛主くんも含め、髪型もスーツも小じゃれた印象の独身者ばかり四名。
だよなあ、と同調する面々。
「振られたら気まずいし仕事やりづらいし」
喫煙所といっても箱型に広くなっている空間に市販の脱臭機を設えて、手前にパーテーションを立てただけだ。会話は筒抜けになる。
「腰掛けOLならともかく、職場で実績重ねなきゃならない俺らはのちのことまで視野に入れないと」
「要はフラれかただろ? 言うだけ言って反応悪けりゃ『冗談でした』でかわすとか」
「それいい。今度使わせてもらうわ」
「使用料は生ビール中ジョッキ一杯な」
「金取んのかよ」
あ、姫、とそのなかのひとりが私の接近に気づくとしんとなった。
「いーこと聞いちゃった」
私は笑いかけながら輪のほうに歩み寄る。
「同じ職場の女に告るのが自殺行為とか、誰です、そんな名言吐いちゃった人は」
それこいつ、と長身の男性が壁のほうを指して簡単に仲間を売る。そこには瑛主くんがいて、黙って私を見ていた。私は視線を外した。
「まあそんなのは各々のポリシーなんでどうでもいいけど」