エースとprincess
「あっ、今のって電機屋さん?」
「みたいですね」
窓の外に見えた看板のことを言っているようだ。
「行く。行きたい! ねえ、止めてもらって」
「は。なに言ってるんです」
私たちは電車に乗っていて、その電車はゆるやかに動き出して加速しはじめている。
「どうにかならない? 今ね、美顔器がなくて困っているの。こっちに持ってくるのを忘れてしまって」
峰岸さんは上目遣いで私の腕にすがる。
「……じゃあ次で降りて、一駅戻りましょうか」
「ええ」
断って変に機嫌を損ねさせるより、そうしたほうがよさそうだった。スマートフォンを取り出して、瑛主くんに峰岸さんを連れだしている件と併せて連絡する。止せと言われても、瑛主くんがしてきたようにマンションのまえまでは送るつもりだ。
「ところであるわよね、美顔器。美容家電の売場は何階?」
私は専属のナビじゃないです、と言い返すよりも、じゃあ検索してみましょうねと応じてしまったあたり、私も結構毒されているのかもしれない。