エースとprincess
キスはひとつでは終わらなかった。触れるだけのそれが済んだあと、身体を引いたのに追ってきて再び唇をふさがれる。離れたと思ってもそれは一瞬で、また柔らかくしなやかにキスが繰り返された。浴びるようなという表現がぴったりだった。扱いは終始優しかったけれど、しまいには目眩がしていた。
止んだあと、ぼんやりしていると瑛主くんがささやいた。
「このまま抱いてしまいたいけど」
声が掠れている。暗がりで困ったように笑う瑛主くんに言いようのない色気を感じた。こんな顔は見たことがなかった。
「今さっきつきあおうってなったばかりでそうしたくない気持ちもある。姫里はどうしたい? 抱かれたい?」
答えに詰まっていると、さほど時間を置かずに
「俺のほうはいつでも抱けるから」
と言われた。
質問で返すという逃げ道を奪われ、私は正直に言うしかなかった。キスの最中、後頭部をつかまれていた感触がまだ生々しく残っている。
「もう、いっぱいです」
「うん?」
「だから、もういっぱいですってば! さっきから抱くだの抱けるだの……すごく恥ずかしい。涙出てきた」
いやいやをするように逃れようとしてもなぜか身動きが取れなかった。瑛主くんが押さえつけているわけでもないのになぜソファから降りられないのだろう。首を傾げていると、面白そうに顔を覗きこまれた。
「足が立たなくなった?」
「そっか、昼間のフェスで疲れたから」
「じゃなくって。姫里、今ので腰が抜けちゃったんだよ」
「質問されて腰抜かしたなんて話は聞いたことが」
「俺だってないよ。そうじゃなくて、そのまえの。キス」