エースとprincess
途中からカラオケ組の数人がこちらの様子を見にきていたらしい。労いと冷やかしの声が瑛主くんにかけられている。
「僕だって打ったんだけどなあ。少しくらいいじってほしかった」
私の横でサワダ(仮)さんが駆け出しの芸人みたいなことを言った。
「そういえば誰が勝ったの?」
「誰って……僕だよ」
「うん、ごめんなさいね。敢えて聞くことなかったね」
サワダ(仮)さんの白々しい嘘をやりすごしたところで瑛主くんから呼ばれた。そちらに行こうとしたら、そういうことではないらしく、なにかを放るようなジェスチャーをしている。下手投げからの放物線で私に飛んできたのは、なにかの鍵だった。シンプルな皮のキーホルダーがついている。部屋の鍵のようにも見えるのだけど。
目で問いかけると、瑛主くんは額の汗を拭いながらさらりと言った。
「先に帰ってて」
周囲はどよめいた。