エースとprincess

「でも少しなんでしょ!」

 さっきは認めるのに時間をかけたくせに、今度はあっさり心配だと口にするとか、調子のいい。
 かっとなって語気を荒げた私に向かって、振り払われたはずの手が戻ってくる。

「俺『心配させやがってこのやろ』なんてキャラじゃないし。普通に心配してたよ。で、言いたいのはそれだけ?」

「それだけじゃ、ないけど……わかんない」

 好きって言えたらどんなにいいだろう。異動して間もないから仕事を覚えるのが先、と瑛主くんは言った。誰のことも相手にしないって意味だと思う。
 でも峰岸さんを見たときの瑛主くんは、らしくないほど動揺していた。そんなところを見せられて、冷静でいられるはずがなかった。

「じゃ、触るよ」

「はっ!?」

 ぐるぐる考えていたせいで反応が遅れた。私はこちらに来た手にふわりと抱き寄せられた。頭が瑛主くんの肩口に触れる。伺いをたてられたことで無性に腹が立つような、逆に私を慮った優しさともとれるような、複雑な気持ちになりつつも、悪い気はしなかった。
 そっと包み込むだけの抱擁だった。私はおとなしくじっとしていた。瑛主くんはなにも言わなかった。

 やがて私はいくらか落ち着きを取り戻した。面倒でも、泣いていてもなんでも、この人はこうやっていつも私を気にかけてくれる。困っていたら助けてくれる。
 その腕に甘えてじっとしていると、頭のうえでふっと小さく笑うのがわかった。

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