エースとprincess

 のろのろと一階に降りると、社屋の自動ドアのそばで男性社員ふたりと大久保さんが立ち往生していた。

「どうしたの? 変な組み合わせだね」

 雨でも降っていて傘を持っていない同士が出るに出られなくなっているというのならわかる。でも雨の降る気配はないし、終業後の待ち合わせにしては顔つきが神妙すぎた。変と言われて誰も反応しないのもおかしい。

「そうだ、姫里なら知ってるかも」
「あの人、谷口主任の知りあいらしいんだけど、約束してなかったらしくてさ」
「あの人?」

 助けを求めるように私に食らいつく男性社員に、大久保さんは冷めた視線を流す。

「外で女の人が待っているみたいなんだけどね。この人たち、聞かれるがまま谷口主任が在籍していることを言っちゃったみたいなの。訳ありだったらどうするのよ」

 だって、なあ、と男性社員ふたりは顔を見合わせ、背後を気にする素振りをみせる。

「あれだけの美人が親しげに言うから。なあ?」
「で、谷口主任が出てくるまで、俺らもしゃべっちゃった責任上、こうして状況を見守ってるってわけ。あー谷口主任、早く来ないかな。絶対、大久保さんの取り越し苦労だと思うけどな」

「もしかしてその美人って、目がぱっちりしてて色白の、胸を大きくしたアンティークドールみたいな?」

 私が聞くと、そうそう、と三人は異口同音に応じた。

「それ! その人!」

「姫里、知ってるのか。ってことは、あの人、谷口主任と本当に知り合いなんだ」

「すごい気になるー。これはもう、谷口主任が来るまで待たなくちゃ!」

「……大久保さん、もう帰りたいって嫌そうに言ってなかった?」

「今日は旦那いないから急ぐ必要ないし。第一、気になるじゃない! ここで帰れないじゃない! あれだけの美人と谷口主任だなんて、どういう関係なのか見届けるしかないよね」

 わいわい騒ぎ出す大久保さんたち。同じクラスのカップルを街で見かけてはやしたてる中学生か! 
 そっと外を伺うと、確かに扉の外にこちらに背を向けて立つほっそりとした女性の姿が見える。間違いなく峰岸ありささんだ。

< 97 / 144 >

この作品をシェア

pagetop