傷痕~想い出に変わるまで~
店を出るととにかく1秒でも早くこの場を立ち去りたくて、駅に向かって歩き出そうとした。

すると光が突然私の手を握り、駅とは逆の方向へと歩き出した。

驚いて手を引っ込めようとすると、光は更に強い力で少し強引に私の手を引いて歩いた。

「…離して。」

「お願いだから、逃げないでもう少しだけ話を聞いて。これきりになんてしたくない。」

これでもう光とのことにけりをつけて全部終わらせるつもりだったのに、光はそれを許してくれない。

光の手はあの頃と同じように温かくて、なんのためらいもなく大好きだと言えた頃のことが次々と頭に浮かんで、手を引かれながら見つめた光の後ろ姿がぼんやりとにじんで見えた。


しばらく歩いた後、閉店したショッピングモールのそばにある広場のベンチに座った。

光はすぐそばにあった自販機で買った温かいミルクティーを申し訳なさそうに私に差し出した。

「ゆっくり話せる場所探してたらこんなとこまで来ちゃったよ。ごめんな、瑞希。」

黙ってミルクティーを受け取った。

昔、私が気に入ってよく飲んでいたものだ。

最近はコーヒーばかりでミルクティーはあまり飲まないことなんて光は知らない。

光は私の隣に座りタブを開けてコーヒーを一口飲んだ。

昔は飲まなかったブラックの缶コーヒーだ。

光も私が知らないうちにそんなの飲むようになったんだな。

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