傷痕~想い出に変わるまで~
禊(ミソギ)
翌日。

夕べはしゃぎすぎたのか、部下たちは少々蒼白い顔をしてパソコンに向かう者が数人いた。

明日から大事な仕事が待ってるんだから飲み過ぎにはくれぐれも気を付けて、と帰り際に言ったのに。

酒の匂いをプンプンさせてクライアントに会うなんて失礼極まりない。

あの様子だと二次会どころか三次会まで行ったな。

後でやんわりじっくりたしなめておかないと。

そんな私も、夕べはリングピローに納められた結婚指輪を眺めながらいつもより多目にビールを飲んだ。

不思議ではあるけれど、思い出すのは光の笑顔ばかりで思わず涙がこぼれた。

確かに仕事は大事だけれど、光のことは本当に好きだったと思う。

いや、光の笑顔ばかり思い出すということは、もしかしたら私が好きだったのは明るく笑っていた頃の光だけなのかも知れない。



昼休み。

社員食堂でトレイを持って並んでいると後ろから肩を叩かれた。

振り返るとそこには飛び抜けて背の高い男。

隣の課の課長で同期の門倉 凌平(カドクラ リョウヘイ)だ。

「よう、篠宮。昨日はおたくの課でめでたいことがあったらしいな。」

「お陰様で。」

門倉は笑みを浮かべながら私の肩をポンポンと叩いた。

「かなり不利だって聞いてたけどな、おまえの部下たちもなかなかやるじゃん。」

「そうでしょ。みんな若くて一生懸命だからね。私には想像もつかないようなことを言い出すよ。」

「うちは割と保守的な人間が多いからな。教育関係のクライアントには喜ばれるぞ。」

門倉が課長を務める企画一課と私が課長を務める企画二課はオフィスが隣同士で、得意分野は真逆なようだ。



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