傷痕~想い出に変わるまで~
腰より少し上の辺りまで伸ばしていた髪を肩につかないほどバッサリ切ったのは、離婚届を出した翌日だった。

私から切り離され床を埋め尽くした長い髪をぼんやりと眺めながら、泣かないように唇を噛んで堪えた。

あの日以来、私はショートヘアを貫いている。

「見た目は変わったんだけど…離婚して時間が経って落ち着いて来ると、いろいろ後悔することが増えたんだよね。」

「俺も似たようなもんだ。中身が簡単に変わるわけじゃないからな。」

門倉は店員を呼び止めて生ビールのおかわりを二つ注文した。

「篠宮、離婚してどれくらいになる?」

「来月の末で5年。」

「結婚期間も5年だったな。」

「そう。婚姻届を出した日のちょうど5年後に離婚届を出した。そうすれば覚えてるのは1日だけで済むかなって。」

結婚指輪を外して一人で役所に離婚届を出した日のことは、この先もきっと忘れないと思う。

店員から受け取ったおかわりのビールを少し飲んでから、門倉は顔を上げて私の方を見た。

「そろそろいいんじゃないか?」

「…何が?」

「禊だよ。離婚してからちょうど5年だろ。結婚期間と同じ5年だ。この辺でそろそろ自分を解放してやれば?」

灰皿の上で短くなっていくタバコを見つめながら、門倉の言った言葉を頭の中で反芻した。

自分を解放してやれと言われても、そんなに簡単なことじゃない。

「篠宮はもうじゅうぶん後悔も反省もしただろう。いつまでも過去を振り返ってたって前には進めない。悔やんでるなら同じ失敗を繰り返さないようにすればいい。」


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