傷痕~想い出に変わるまで~
土曜日の夜。

久しぶりに光の家を訪れた。

何日も連絡がなくて心配していたけれど、昨日ようやく連絡が取れた。

体調が悪くて仕事から帰るとずっと寝ていたらしい。

そんな時くらい遠慮しないで頼ればいいのに。

また私に無理をさせてはいけないと思って連絡しなかったのかな。

「瑞希の作った卵の雑炊好きだったな。久しぶりにあれ食べたい。」

光は電話口で懐かしそうにそう言った。

確か結婚して少し経った頃、光が風邪をひいて食欲がなかった時につくってあげたんだ。

よく覚えてるな。

仕事が終わったら光の部屋に行って作ると約束した。

何日ぶりかに会う光は顔色が悪く、だるそうに体をベッドに横たえていた。

雑炊を作ってテーブルに運ぶと、光は“瑞希が食べさせて”と甘えた声で言った。

熱い雑炊をお椀によそい、スプーンですくってふうふう吹き冷ました。

「はい、あーん。」

口の前に運ぶと光は嬉しそうに口を開いた。

「あーん。」

まるで雛鳥に餌を与える親鳥のようだ。

「やっぱうまいな…。俺、瑞希の手料理は全部好きだよ。」

光はしみじみとそう言った。

光が雑炊を食べ終えた後、片付けをしようとして病院で処方された薬の袋が目に留まった。

「病院で薬もらったの?」

「ああ…うん。偏頭痛があんまりひどくて病院に行ったんだ。」

「そうなんだ。これ、食後って書いてあるけど飲まなくていいの?」

「飲むよ。忘れかけてた。」

グラスに水を注いで薬と一緒に手渡した。

光は何種類かの薬を水と一緒に口に含んで飲み込んだ。

偏頭痛の薬って、そんなに何種類もあるんだ。


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