傷痕~想い出に変わるまで~
「良かった。これで心置きなくいける。来週中にはここ引き払うから、明日から転勤の引き継ぎと引っ越しの準備で忙しくなるし…。今日で、サヨナラしよう。」

サヨナラという言葉でまた涙がとめどなく溢れた。

本当に大好きだった。

二十歳の時からの光との想い出が走馬灯のように蘇った。

好きで好きでどうしようもなくて、ずっと一緒にいられるように結婚したのにたったの5年で離婚した。

好きだから言えなかったことや、好きだからこそつらかったこともたくさんあった。

お互いの胸に残る傷跡はいつになったら癒えるのだろう?

愛し合った日々や別れを選んだあの日を想い出と呼ぶにはまだ早すぎる。

「光…ずっと一緒にいようって約束守れなくて、ごめんね。」

「俺の方こそ何度もつらい思いさせてごめん。瑞希、愛してる。最後に一度だけでいい。嘘でもいいから、愛してるって言って。」

「光、ありがとう。愛してる…。」

お互いの涙を指先で拭って、サヨナラのキスをした。

今まで何度も交わしたどのキスより、とても優しくて切ないキスだった。


その後、光は私をマンションまで送り届けてくれた。

手を繋いで歩くのはこれでもう最後だと思うと寂しくて、胸がしめつけられるように痛んだ。

マンションの下まで来ると、光は私の頬にキスをして、じゃあまたね、と言って手を振った。

今日で別れるのに“じゃあまたね”と言ったのは、光なりの優しさだったのかも知れない。

いつかもっと大人になってまた会えたなら、あの頃のことも今のことも、想い出だと笑って言えるだろうか。


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