傷痕~想い出に変わるまで~
「確かに門倉の言う通りかもね。私ちょっと美化してたかも。」

「篠宮は元旦那に対して今も罪悪感があるからな。そんな風に思い出して引きずられてるとさ、自分はまだ相手を好きなのかもとか錯覚することってあるだろ?」

…あるのかな?

私にはよくわからないけど、もしかしたら門倉にもそんなことがあったから言うのかも知れない。

「門倉にもそんなことあった?」

「ほんの少しはな。離婚してからの1年間くらいはあったと思う。復縁したいと思ったこともあるし。」

門倉にもそんな頃があったんだ。

私は逆に離婚してすぐの頃は光を許せなかった。

「でも本社に戻って一課に配属されて、篠宮と禊やるようになってからかな。心の中に溜め込んでたもの吐き出してくうちに、だんだん離婚を現実として受け止められるようになった気がする。」

「良かった。私の離婚経験もちょっとは役に立ったんだ。」

「役に立つ離婚ってなんだよ。」

門倉がおかしそうに笑うから、私もつられて笑った。

私も門倉みたいに心を浄化できれば良かったんだけど、話すほど不完全燃焼で発生した一酸化炭素みたいに私の心に光との思い出が充満してしまう。

「会った方がいいのかな。」

「そうしてみれば?元旦那も気持ちに区切りつけたいのかも知れないしな。」

この5年で私が光の好みとは真逆の女に変わったように、光にも私の知らない5年間があるはずだ。

離婚する時はお互いに大事なことは何も話さなかった。

とても話せる状態じゃなかったから。

ほんの少し大人になった今なら、お互い笑ってお別れと感謝の言葉を言えるだろうか?






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