傷痕~想い出に変わるまで~
このまま当たり障りのない会話をしていても埒が明かない。

直接会ってまで話したかったことはなんなのか、思いきって聞いてみよう。

「あの…。」

「瑞希、あの時はごめん。本当に悪かった。」

光は私の言葉を遮ってそう言うと、深々と頭を下げた。

予想外の展開に驚き言葉が出てこない。

私は呆然と光のつむじを眺めている。

「うまくいかないことを全部瑞希のせいにしてた。何も話さなかったくせに、なんで瑞希は俺の気持ちに気付いてくれないんだろうって。情けないけど、瑞希は俺のことより仕事が大事なんだって子供みたいに拗ねてた。本当にごめん。」

……なんで今頃になってこんなこと言うかな。

あの時ちゃんと本音をぶつけてくれていたら、もっと違う形におさまっていたかも知れないのに。

「あの…頭上げてくれる?」

そんなに派手に頭を下げられたら、周りの客にジロジロ見られている気がして居心地が悪い。

光は頭を上げてまっすぐに私の顔を見た。

「離婚してからしばらくしてやっと冷静に物事を考えられる状態になって…全面的に俺が悪かったって気付いたんだ。ずっと謝りたいと思ってたけど、瑞希の連絡先も住所も変わった後だったからどうしようもなくて…。」

「…うん。」

離婚届を出してから2週間後に二人で暮らしたマンションを引き払った。

それと同時に私は携帯電話の番号を変えた。

離婚についての話は済んでいたし、もう光と会うことはないだろうと思ったから。

それ以外にも私の居所や連絡先を知る手立てはあっただろうに、そこまでは考えなかったのかな。


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