傷痕~想い出に変わるまで~
少し息を整えて正面を向くと、光が笑いを堪えていた。

「……なに?」

「いや…瑞希がすごい顔して店員の女の子見てたから、おかしくてつい。」

堪えきれなくなったのか、光がおかしそうに笑った。

笑った顔は昔と同じだ。

「仕事柄なのかな。なんだか若い部下を見てるような気になっちゃって…。」

「瑞希らしいね。」

光にとっての私らしさって…なんだ?

寝ても覚めても仕事のことで頭が一杯の仕事人間とか…どうせそんなところだろう。

光はまだ笑っている。

「そんなに笑うことないでしょ。」

「ごめんごめん。相変わらず仕事頑張ってるんだなって…。」

相変わらずって…それはどう捉えればいい?

仕事頑張ってる私を誉めてるの?

それとも仕事しかできない女だって呆れてる?

喜んでいいのか落ち込んでいいのかわからない。

「門倉さんから聞いたけど、課長なんだって?」

「ああ…うん。」

門倉から聞いたって、一体何をどこまで?

光に変なことを吹き込んではいないか心配で、妙な汗が背中を伝った。

「すごいな、瑞希は。」

「…私には仕事しかないから。」

ちょっとイヤな言い方だったかな。

私は光みたいに他の人に心の拠り所を求めることは出来なかった。

光にはきっとつらい時に支えてくれる優しい誰かがそばにいるんだろう。

離婚してからの5年間、誰とも付き合わず恋愛もしていないと言ったら、光は驚くだろうか。


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