傷痕~想い出に変わるまで~
「明日も仕事があるし、もう遅いから帰りたいんだけど。」

「えっ…話の続きは?」

「話はもういいよ。帰るね。」

背を向けて足早に歩き出すと、光は私を追い掛けてまた腕を掴んだ。

「待って。もう少しだけでいいから。」

光は私の腕を離そうとしない。

「だから痛いって…。」

「ごめん、でもどうしても聞いてほしい。」

私が話を聞くまで離さないつもり?

一緒にいた頃は何も言わずに自分から離れて行ったくせに、今頃になって必死で引き留めて話を聞けなんて勝手過ぎる。

「…勝手だよね。」

「ごめん。勝手なのはわかってる。」

「……わかってるなら離して。もういいでしょ?」

振りほどこうとしても光は私の腕を強く掴んだまま離さない。

「離してよ…。」

「ずっと後悔してた、なんで瑞希とちゃんと向きおうとしなかったのかって。俺は自分のことでいっぱいになりすぎて逃げてばっかりで…。」

何も聞きたくない。

耳を塞ぎたいのに、光はそれを許してくれない。

「ずっと一緒にいようって約束したのに俺は…!」

「もう聞きたくない!!」

ありったけの力を振り絞って光の手を振り払った。

「光に私の気持ちなんてわからないよ!」

涙がこぼれそうになるのを堪えて駆け出した。

「瑞希!!」

後ろで私を呼ぶ光の声が聞こえたけれど、振り返らずにひたすら走った。

いつの間にかこぼれ落ちて頬を伝う涙を手の甲で拭った。

駅のそばに辿り着く頃には、私の頬は涙でぐちゃぐちゃだった。



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