傷痕~想い出に変わるまで~
「だから落ち着けって…。ちゃんと聞くから、何があったか最初から話してみろ。」

……なんだこれ。

なに?この状況。

いくら私が頭に血が昇って吠えてたって、門倉にこんな風にされる覚えはない。

こんな風に男の人に抱きしめられたのは、光以外ではこれが初めてだ。

門倉のことなんか男として意識したことは一度もないのに、胸の広さとか腕のたくましさとか、ちょっとしたことにドキドキしてしまう。

スーツからは仄かに門倉がいつも吸っているタバコの香りがした。

ないない、門倉にドキドキするなんて有り得ない。

急に照れくさくなって、一気に頭から血の気が引いた。

「……話すから一刻も早くその手を離せ。」

「お?ああ、これか。」

門倉は何食わぬ顔をして私から手を離した。

ムカつく…。

想定外の門倉の行動に、不覚にも高鳴ってしまった鼓動がまだ治まらない。

不可解な胸の高鳴りを気のせいにしてしまおうと、私は門倉のネクタイを思いきり引っ張った。

「ホントにムカつくよね、門倉って。」

「ん?そうか?」

「自覚ないのが更にムカつく…。」

歯を食いしばって更に強くネクタイを引っ張った。

その拍子に気を抜いていた門倉の顔が引き寄せられ私の顔に近付いた。

えっ、まさか…?!


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