傷痕~想い出に変わるまで~
「泣かないよ…。門倉ってやっぱり天然だよね…。」

門倉の胸を両手で押し返そうとすると、門倉は更に強い力で私を抱きしめた。

「はぁ?もう天然でも養殖でもなんでもいいよ。つらいことは自分の中に溜め込んでないで全部吐き出せ。俺がいくらでも聞いてやる。」

「やっぱり知りたくなかったな…。今更だけど…ショックだった。」

「篠宮…。」

無理に聞かせて悪かったとでも思っているのか、それとも同情しているのか。

門倉はなかなか私を離そうとしない。

「もう大丈夫だから離して。」

「一人になるのがつらいなら…うち、来るか?」

いつもより少し低い声で門倉が尋ねた。

門倉の家に行ったことなんかないし、そこまでしてもらう理由はない。

それに今は早く一人になりたい。

「行かない。ちゃんと帰るから安心して。」

「一人でホントに大丈夫か?」

「大丈夫。明日も仕事だし、帰ってお風呂入って寝る。」

「うん…そうか。」

門倉は私からゆっくりと手を離した。

急に夜風の冷たさが染みて身震いがした。

「確かに寒いね。早く帰ろう。」

家まで送ると門倉は言ってくれたけど私はそれを断って、駅前のタクシー乗り場から別々のタクシーに乗った。

タクシーに乗ってドアが閉まり、門倉の姿が見えなくなった途端に涙が溢れた。

こんな時はあんまり優しく抱きしめたりしないで欲しい。

光に抱きしめられた時のことをまた思い出して泣いてしまうから。



< 80 / 244 >

この作品をシェア

pagetop