傷痕~想い出に変わるまで~
帰り際、小塚は言った。


“二人とも先を急がないで、もう少し大人になってから結婚すればうまく行ったのかも知れないな”


それは私も何度も思ったことだ。

どんなに悔やんでも過ぎた時間は戻らない。

だけど…若かった日の過ちを心から悔やんでいるのなら、また別の未来へも踏み出せるのではないか。

やり直すことはもうできない。

だけどもし新たな道があるのなら、私は……。




自宅に戻りシャワーを浴びて床に就いた。

疲れているはずなのになかなか寝付けず、何度も寝返りを打った。

光のことを考えると自然と溢れた涙は、いつしか枕に染みを広げた。

本当に好きだった。

好きだったから、掴み合いの喧嘩をして罵り合って憎み合って別れたくはなかった。

だから何も言わなかった。

私も光も、お互いに自分の弱さや心の奥に潜む汚い部分をさらけ出すことができなかった。

どうして私たちはわかり合おうとしなかったんだろう?

あんなに好きで好きでどうしようもなくて、ずっと一緒にいるために結婚したはずなのに。

喧嘩して泣きじゃくる私の頭を何度も撫でてくれた優しい手と、いつかの仲直りの言葉を思い出した。


“ごめん、瑞希。泣かせてごめんな。俺には瑞希しかいないよ。好きだからずっと俺のそばにいて”


ずっと一緒にいたかったのは私も同じだったはずなのに。

無機的に一緒にいることで光を苦しめてしまったのだと思うとやりきれなくてまた涙が溢れた。

「ごめんね、光…。」

光に届くことのないその言葉は夜のしじまに跡形もなく消え去った。






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