傷痕~想い出に変わるまで~
「…ううん、明太子のカルボナーラセットにする。サラダも飲み物もデザートも付いてるって。」

光がほんの少し顔をしかめたのがわかったけど、私はそれに気付かないふりをした。

「生ハムのサラダはいいの?」

「いい。そんなに食べられないから。」

「うん…そっか。」

目をそらしてうっすらと笑みを浮かべた光の顔が、どことなく寂しそうだった。

向かい合って食事をしても昔と同じようには笑えないし、楽しかった頃を懐かしむために会ったわけじゃない。

どうにもならない違和感ばかりが膨らんで息苦しくて声も出せなくなってしまいそうだから、早々に話を済ませてしまった方がいいのかも知れない。

光が右手を挙げて店員を呼び止め、明太子のカルボナーラセットと、茄子とベーコンとトマトのパスタと、生ハムのサラダとホットコーヒーを注文した。

店員がテーブルから離れると光はグラスの水を少し飲んだ。

「…なんで自分の好きなもの注文しないの?」

「ん?食べたいなと思ったから注文したんだよ。」

嘘ばっかり…茄子なんか好きじゃないくせに。

サラダだって生ハムよりシーフードの方が好きだったはず。

「変な気を遣わなくていいのに。」

「瑞希が好きなもの俺も食べたいなと思っちゃいけない?」

「いけなくはないけど…。」

また胸が軋んだ音をたてた。

立て付けの悪い錆びたドアを無理やりこじ開けようとしているような、そんな感じ。

「あのね光、私…。」

「話は食事の後にしよう。」

「…うん。」


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