鬼上司は秘密の恋人!?
そう言われても、長尾さんの表情はまったく変わらないままだった。
石月さんの声に、わずかに苛立ちが混じる。
「優しい一彦さんが、夫を亡くした悲しみから癒えていない母を、矢面に立たせるはずがない。そう言えばかならず一彦さんは出馬すると分かっていて、母を人質にとるようにして出馬させた」
石月さんはちらりと長尾さんをみやり、それでも何も言わない彼に、眉をひそめながら続ける。
「一彦さんに党のマニフェストを叩き込み、『この一回だけ』と言いくるめた。これで落ちれば自由にするから、と。だからあなたは意地でも一彦さんを当選させたかった。政治家が選挙に落選すれば、本人はもちろん周りの秘書たちも一気に無職だ。自分の立場を維持するために、父を亡くしたばかりの一彦さんをキレイに笑い手を振る人形のように仕立て上げ、利用した。当選した後、由奈さんと別れさせるときも、『あなたの振る舞いひとつで秘書たちは露頭に迷うんだ』と、自分達の人生を無理やり握り込ませ責任を背負わせた」
すると、長尾さんが開き直ったように笑った。
「本当に雑誌記者は想像でよく喋る。それは全て想像ですよね? 証拠なんてひとつもない」
バカにしたような言い方に、石月さんは表情ひとつ変えることなく、落ち着き払って頷いた。
「そうです、証拠なんて無い。全て私が今まで編集者としてやってきて作り上げたパイプを使って集めた情報を元にした想像です。しかし当事者にはその想像を語るだけで、真実かどうか判断できるんじゃないですか?」
「当事者?」
長尾さんが眉をひそめて顔を上げる。
襖が開く音がして、冷たい空気が室内に入ってきた。
顔を上げるとそこには、青ざめた顔の宮越議員が立ち尽くしていた。