鬼上司は秘密の恋人!?
「……由奈と別れたことを、長尾のせいにするつもりはありません。長尾に説得され、決断したのは自分です。彼女と政治家としての責任を天秤にかけ、自分で選んだ。政治家の妻として苦労する母の姿を見ていたから、まだ若い由奈にそんな思いをさせたくなかった。……なんて今更虫の良すぎる言い訳ですが」
宮越さんは、うつむきながらそう言った。
以前編集部で見た堂々とした姿とは、別人のような表情だった。
きっと、政治家として人の前に立つときは、一生懸命素の自分を押し殺し、理想の姿を演じていたんだ。
「長尾がここまでしたのは、自分が頼りなく不甲斐ないからです。知らなかったとはいえ、由奈にひどいことをしてしまった……」
そう言って、宮越さんは潔く頭を下げた。
誰も責めずに、誰のせいにもせずに、まずいちばんに謝罪してくれた。
優しい人だと思った。
この優しい人に、由奈は恋をしたんだ。
たったひとりでも、この人の子供を産みたいと思うほど、彼のことが好きだったんだ。
色々複雑な思いはあるけど、祐一の父親がこんな優しい人でよかったという思いがこみ上げて、瞼の奥が熱くなる。
「……なぁ、長尾、勘弁してくれよ」
その時体を震わせるような、低い声がした。
蜂谷大臣が喉の奥を震わすようにして低く笑って長尾さんを見やる。
口元は笑っているけれど、目元にはぞっとするくらい力が込められていた。
「自分のとこの若造のゴタゴタをもみ消すために、出版社に圧力をかけたなんて野党に知られたら、恰好の攻撃材料になる。お前の不用意な行動で、与党の地位を揺るがすようなことになったら、一介の秘書のお前が責任とれんのか?」
けして怒鳴っているわけではいない、穏やかな声なのに、部屋の中の温度が急に下がったように、ぞっとした。