鬼上司は秘密の恋人!?
 



「お疲れ様でした!」

今日も慌ただしく職場を後にする。
エレベーターで一階に降り、出版社の入ったビルを飛び出すと、「おい」と低い声に呼び止められた。

びくっとして振り返ると、ビルとビルの隙間から背の高い男がこちらを睨んでいた。
もう六時近い今は夕暮れ時で、相手の顔がよく見えない。
どうしよう、こわい……。
びくびくしながら目をこらしていると、突然目の前の男がハッと呆れたように息を吐いた。

「なにビビってんだよ」
「あ、石月さん……」

誰かと思ったら、石月さんか。ほっと安堵の息を吐きながら「お疲れ様です」と頭を下げる。

「お前って、野生の小動物みたいだよな。声をかけるたびにビクビクして飛び上がって」

バカにしたような口調に、少しむっとする。
私がビクビクしてるのは、石月さんがいつも怖いせいだと思うんですけど。
なんてとても言い返せないから黙ったまま頬をふくらませた。

「今帰りか?」
「はい。なにか仕事ありましたか?」

私がたずねると石月さんは首を横に振る。

「いや、ねぇけど。お前いつも残業つけてないだろ。働いた分、ちゃんとつけておけよ」
「あ、でも三十分くらいなので」
「でもじゃねーよ」

反論されたのが面白くないのか、石月さんは私を威嚇するように睨んだ。
いちいちそんな怖い言い方しなくたっていいのに。

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