鬼上司は秘密の恋人!?
すると鳴瀬さんは照れくさそうに頭をかいて俯いた。
「俺、挫折ばかりの人生だったんです。ずっとサッカーやってたのに、高校の時に膝を故障して挫折して。大学もサッカーの推薦で行くつもりだったから、ろくに勉強してなくて受験に失敗して一浪して。スポーツ関係の雑誌を担当したくて出版社に入ったら、配属されたのは全然関係のないビジネス情報誌で。思い通りにならないことばかりで腐ったりもしたんですけど、そのとき川村さんの試合後のインタビューをたまたま見たんです」
鳴瀬さんの言葉に、川村さんが手にした企画書をぎゅっと掴んだ。
「仲間のミスにも審判の厳しい判定にも、なににも不満を漏らさず、ただその時自分に出来ることを見極めて突き進む姿に本当に励まされて。俺もこんなふうに、どんな状況に立たされても、その場所で自分の最高の仕事をできるような人間になりたいと思って。その気持ちを読者にも伝えたくてこの企画書を書いたんです」
じっと鳴瀬さんの言葉を聞いていた川村さんの頬が、上気していた。
さっきまで沈んだ顔をしていたのが嘘のように、わくわくした顔で鳴瀬さんのことを見つめる。
「この企画、俺が考えてはじめて通った企画だったんです。だから、舞い上がっちゃって。読者の話題を集めたいとか、少しでも雑誌を多く売りたいとか、どうしてもいい結果を残したいって空回りしちゃって。企画書作ったときの気持ちを見失ってました。余計な入れ知恵してプレッシャーをかけて、すいませんでした!」
潔く頭を下げた鳴瀬さんに、川村さんが何度も首を横に振る。