鬼上司は秘密の恋人!?
「謝らないでください。私も、現役時代の気持ちをすっかり忘れてました。書きます、ちゃんと。鳴瀬さんが納得してくれるものを、自分の言葉で。鳴瀬さんに、私にエッセイを依賴してよかったと、思わせるような文章を」
人が奮い立つ瞬間を目の当たりにして、胸がどきどきした。
鳴瀬さんと川村さん、ふたりの間の空気の熱がまわりに伝染していくのを感じた。
「鳴瀬さん。この企画書お借りしてもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
頷いた鳴瀬さんに微笑んで、川村さんが顔を上げる。
そして編集部をぐるりと見回した。
「お騒がせして、本当にご迷惑をおかけました!」
長身を折り曲げ川村さんが頭を下げる。
顔を上げると、いてもたってもいられない、という様子で背筋を伸ばして歩きだす。
「鳴瀬さん、待っててくださいね。ご連絡しますから!」
そう言って編集部を出ていく川村さんを見送った鳴瀬さんは、はぁーっと大きく息を吐き出してその場に崩れ落ちた。
「よかったぁ……」
みんなホッとしたように笑顔で鳴瀬さんのことを見つめる中、ひとりだけ険しい顔をする人がいた。
それはもちろん石月さん。
「……てめぇ、なにがよかっただ!」
足元にしゃがみ込む鳴瀬さんの背中を、長い足で蹴り上げる。