鬼上司は秘密の恋人!?
「燃えてるの、お前の住んでるアパートか?」
そう問われ、呆然としたまま頷く。
パチパチと音をたて、燃え上がるアパート。
「下がってください」という消防士の大声とともに、木造のアパートを支える柱が崩れ落ちるのが見えた。
ゴオッと唸るような音をたて、火柱が空に上がる。
無数の火花が舞い上がる。
祐一とふたりで震えながら、そのさまをぼんやりと見ていた。
すると私の顔と、祐一の顔を交互に見た石月さんは、大きくため息をついた。
「旦那はまだ仕事か?」
「は……?」
一体なんのことだろうと首を傾げる。
「だから、このチビの父親は?」
「パパはいないよ」
私の代わりに祐一が石月さんに答える。
「じゃあママとふたりで暮らしてんのか」
「ママじゃなくて、ゆき」
「はぁ?」
子供に対しても威圧的な石月さんに、私は慌てて口を開く。
「あの、私の甥っ子なんですけど、姉が半年前に交通事故で……」
そこまで言うと、石月さんは顔をしかめた。
「家が火事になって、頼れる実家とか、親戚とかいんのか?」
石月さんの問いかけに、歯を食いしばって首を横に振る。
すると石月さんはしばらく黙り込んだあと、うんざりしたように大きく息を吐き出した。
「……わかった。事情の説明はあとでしてもらうからな」
心底面倒くさそうに石月さんは立ち上がった。
「とりあえず、俺の家に行くぞ」
そう言った石月さんの言葉に、私と祐一は、きょとんとして顔を見合わせた。
「こんなとこで子供連れて突っ立ってても仕方ねぇだろ」
そう言って、歩き出した石月さんの後ろを慌てて追いかけた。