鬼上司は秘密の恋人!?
「あ、台所を勝手に使わせてもらいました。もしよかったら少し食べませんか?」
「なにも材料なかっただろ?」
「ちょうど夕食の材料は買っていたので」
言いながら、豚汁の入ったお鍋を火にかける。
レンジで温めたナスの煮浸しとささみフライを出すと、石月さんは驚いた顔をした。
「編集部で石月さんが唸っているのを聞いてたら、食べたくなっちゃって」
「お前、料理できるんだな」
「豚汁もありますよ」
「食う」
即答した石月さんに、思わず吹き出す。
迷わず豚汁に箸をつけた石月さんは、意外そうに顔を上げた。
「さつまいもだ」
「苦手でした? 甘みが出るのでうちで豚汁作るときはじゃがいもよりもさつまいもが多かったんです」
「はじめてだけど、これはこれで美味い」
「よかった。お豆腐じゃなくて厚揚げを入れるのもうち流なんですよ。具沢山にしてぐつぐつ煮ても崩れにくいから」
「へぇ……」
「さつまいもの甘みが強い分、輪切りの唐辛子をちらしても美味しいし、すりおろした生姜を少し添えても美味しいんです」
ガツガツと食べる石月さんを眺めながらそう言うと、石月さんが眉をひそめた。
「てめぇ、食べ物で俺を懐柔しようとしてんのか」
「え、そんなこと思ってないですよ」
「飯は美味いけど、誤魔化されねぇからな」
「なにも誤魔化そうとしてませんって」
私が慌てて首を横に振ると、石月さんがこちらを睨む。