鬼上司は秘密の恋人!?
 
私が見ていることに気づいた石月さんは、眉をひそめ舌打ちをする。そしてガタンと音をたて乱暴に立ち上がると、編集部のあるフロアから出て行った。

まるで私に見られていたことが、不快で仕方ないというように。

……感じ悪い。ただ目が合っただけなのに、あんなに嫌な顔をしなくても。

たった数分前にはじめて顔を合わせて挨拶をしただけなのに、私そんなに嫌われるようなことしたかな。
さすがにショックでうつむくと、徳永さんが小さく笑って私の肩を軽く叩いた。

「白井さん、あの人のことは気にしなくていいってば。誰にでもあの態度だから、そのうち慣れるよ」
「な、慣れますかね」
慣れる前に心が折れてしまいそうだ。
私がそう自信なさげにつぶやくと、「慣れない子はすぐ辞めちゃうんだけどね」と徳永さんが笑った。

石月さんとは反対で、優しく私に接してくれる徳永さん。眼鏡をかけた真面目そうな彼は、雑誌編集者というより小学校の先生という雰囲気だ。
石月さんも徳永さんの優しさを百分の一でもいいから見習ってくれればいいのに。

「じゃあ仕事の説明をするけどいい?」

ぼんやりそんな事を考えていると徳永さんに声をかけられ、私は慌てて背筋を伸ばし椅子に座り直した。




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