鬼上司は秘密の恋人!?
 
「石月さ……」

「どうした!? 家に帰ったら玄関が開きっぱなしで、ケータイも財布も置きっぱなしで誰もいないから、なにごとかと思ったぞ」

「い、しづきさ……」

彼の名前を呼ぼうとしたけれど、ガクガクと顎が震えて、うまく言葉にできなかった。

しゃくりあげるようになんとか呼吸を繰り返す。
短く早い呼吸しかできずに、どんどん息苦しくなる。

祐一がいなくなってしまったことを説明しないといけないのに、うまく声が出ない。
どうしよう、どうしよう。
泣いてる暇なんてないのに。

焦りと混乱で喉を押さえながら、首を横に振って必死に声を出そうとすると、青ざめて震える私を、石月さんが乱暴に引き寄せた。

肩口に強く顔を押し付け、そのまま頭をガシガシと力任せになでる。
人のぬくもりに、強張っていた全身から力が抜けていくのがわかった。

「少し落ち着け。しゃべらなくていいから、とりあえず深く息を吐け」

私のつむじに頬をつけて、低い声でそう囁く。
触れた喉や肩から石月さんの呼吸が伝わってきて、それに合わせるように私の早くなっていた呼吸がゆっくりと落ち着いていく。

ふぅーっと震えながらも大きく息を吐くと、石月さんがぽんと私の頭をなでた。

「い、しづき、さん……」

恐る恐る声を出すと、たどたどしいながらもちゃんと言葉になった。
私の頭を胸に抱え込むようにしながら、「ん」と短く石月さんが相槌をうつ。

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