鬼上司は秘密の恋人!?
三人で歩いてたどり着いたアパートは、取り壊し工事のために鉄のフェンスで覆われていた。
かつて暮らしたその場所を見上げながら、「やっぱりママいないね」と祐一がつぶやく。
「あたりまえだろ」
石月さんは鼻で笑った。
「お前のママはこんなつまんねーとこにいねぇだろ」
「じゃあどこにいるの?」
祐一の問いかけに、石月さんは少し黙ったあと、「ここじゃね?」と祐一の小さな胸を小突いた。
「ここ?」
不思議そうに自分のお腹を見下ろして首を傾げる。
「そ。きっとそこにいる。だから、いつも一緒だ」
「そっか」
大人びた口調でつぶやいた祐一が、私の手をぎゅっと握った。
小さいけど、力強い手だった。
「さ、帰るぞ」
石月さんがそう言いながら、私達のことを振り返った。
祐一に手を差し伸べ、小さな手を握る。
祐一を挟んで右に石月さん、左に私。
三人で手を繋いで、夜の街をゆっくりと歩きだす。
石月さんが『帰る』と行ってくれたのが嬉しかった。
きっと彼は深い意味もなくそう言ったんだろうけど、私達の帰る場所はあの家なんだと認めてくれたみたいで嬉しかった。
たとえ、私達がお金を貯め出ていくまでの短い期間だけだとしても。
お前の居場所はここなんだと、言ってもらえた気がして、嬉しかった。