神様にお願い!
日向と奈津と、神様と
「カイト、帰るぞ」
学校が終わり、相変わらずみんなに囲まれながら、帰りの用意をしていたカイトに僕は話しかけた。
僕は、終礼後は基本的に家が隣同士の奈津と一緒に帰るのだが、僕の家にホームステイ(居候)しているカイトが今日から一緒になる。
2人きりのところにカイトを入れたくないのが正直な本心だが、カイトは僕が見ておかないと、何をしでかすか分からないというのは昼休みの時に十分に分かった。
「ああ、分かった。...それじゃ俺は先に帰るよ」
「またね、神野君」
「じゃあな、神野」
自分の鞄を持ち、自分を囲んでいた人たちに軽く挨拶をしたカイト。
あの昼休みの後、カイトはクラスの何人かと友達になっていた。
...なんか...やけにみんなと打ち解けてないか?
「待たせて悪い、ヒナタ」
「別に待ってないよ。行くぞ」
そう言ってクラスの扉をくぐろうとしたその時、
「待って、日向」
聞き馴染みのある声が僕に後ろからかけられた。
屋上での一件があってから、少し聞こえただけでやけに意識してしまうようになった声。
その声は、
「何で先帰るのよ。一緒に帰らないの?」
僕が幼い頃から想いを寄せ、実は結婚したいと思っている幼馴染、高嶺奈津のものだった。
「い、いや...そうだ、き、今日は生徒会ないのか?」
今朝まで普通に話せたのに、いざ自分の願いを知った上で話すと、緊張してなかなか言葉が出てこない。
「...? 何固くなってるのよ。今日は生徒会はないよ。だから一緒に帰ろって言ってるのに」
「あ、そうなんだ。それじゃ、帰ろっか...あはは...」
ドスッ!
「痛てっ!」
僕が緊張しながら奈津と話していると、背中に激痛が走った。
見ると、横に並んでいたカイトの腕が、僕の背中の方に伸びている。
「何するんだよ!カイト!」
「あ~ごめん、あんまり情けないもんだから、ついな( ̄Д ̄)ノすまんすまん」
何て棒読み!
心がこもってないのが一発で分かる。
人が緊張してるってのに、一発ぶん殴るって、なんて神様だ!
「ついじゃないよ!次やったら僕の家追い出すからな!分かったか!?」
「へいへ~い|( ̄3 ̄)|」
この野郎...!
この時の僕の頭には、恐らく漫画とかでよく見られる、ぴきマークがいくつも付いている状況だろう。
しかしそんなぴきマークは、次の瞬間に一気に消え失せることになる。
「...ふふっ...」
なんと、奈津が口を押さえて笑っているのだ。
体はピクピク震えているのが分かる。
「...奈津?大丈夫か?」
少し心配になって僕は声をかける。
「だ...大丈夫...クク...」
「ど、どうしたんだよ急に」
「いや...神野君と日向の会話が面白くて...プクク...」
こりゃダメだ。
奈津は昔から笑いのツボが恐ろしく浅く、ちょっとしたことですぐに笑い出すのだ。
そして手で口を押さえて笑う時は、爆笑してるのを必死で押さえている時だ。
別に笑わせているつもりはなかったのだが、なんでここまで笑っているのか僕には理解できなかった。
でも、この一件のおかげで僕はリラックスすることができた。
...もしかしたらカイトは、僕をリラックスさせる為に背中を殴ったりしたのかもしれないな。
不甲斐ない僕に喝を入れたのかもしれないけど。
「まぁ、取りあえず帰ろか」
☆彡
「そういえば、神野君って、日向の家にホームステイしてるのよね」
帰り道、やっと笑いがおさまった奈津がカイトに切り出した。
「そうだ。他に行くアテも無いしな」
「そうなんだ...日向、晩ご飯とかどうするの?」
「晩ご飯?」
「ほら、日向、一人暮らしの時は、インスタントとかコンビニでやりくりしてたでしょ?」
「そうだな...」
僕は料理ができないので、夏の言う通り、大体はコンビニやインスタントでご飯は済ましていた。
まぁ、自分で作るよりそっちの方が美味しいし。
カイトが来てから2日経つが、その2日間は、僕が買い溜めしているカップラーメンで済ましてもらった。
『お湯を入れて待つだけなんて、傘といいこの、かっぷらーめんといい、やっぱりニンゲンは面白いな』とかなんとか言っていたが。
「でも、2人になって、インスタントやコンビニじゃ栄養が偏るでしょ?」
「そうかもしれないな...」
「そこで提案なんだけど...」
「提案?」
「しばらくの間、私が2人のご飯の面倒見れないかなって思って...」
ちょっと待てそれってつまり...
「奈津が作ってくれるのか?」
「そういうこと。学校帰りに日向の家に寄って、ご飯を作ってあげる」
キターーー(((o(*゚▽゚*)o)))
つまりそれは、毎日奈津の手料理が食べられるということなのか?
そうなのか!?
そうなんだな!?
「それじゃ、お言葉に甘えて、お願いします...」
こうして僕の家で、毎日奈津がご飯を作ってくれるようになりました。