神様にお願い!
「しかし...恐ろしいほどよく似合うな。お前のその格好」
兄貴の服に身を包んだカイトは、なまじ顔がいいだけに、よく似合っていた。
ただ1つ気に入らないことがあるとするなら、
「神野君、カッコいいじゃない」
「そうか?ヒナタの兄のものだが...まあ悪くないな」
奈津までカイトに好感触なのだ。
別に嫉妬してるわけじゃない。
ただ、僕の願いを叶えようとしてくれてるやつが、そのターゲットに好かれてどうする。
「コホン...えっと、さっきの話に戻るけどな」
「ああ、悪い。話してるところに割って入って」
「いいのよ神野君。どうせ大した話じゃないから」
僕はわざとらしく咳払いをして、2人の注意をこっちに向けさせた。
大した話じゃないって...僕は一応心配してるんだけどな...
「夜のスーパーやコンビニは不良の巣窟なんだ。そんなことくらい、奈津も知ってるでしょ?」
「知ってるわよ」
知ってるのかよ...
「だったら、今行くのは危ないんじゃないか?」
「大丈夫よ。不良だって、悪さするなら相手を選ぶでしょ?私なんて、全然可愛くないから安心なの」
いやいや、クラス1の可愛い女の子が何言ってるの?
「いや、クラスのみんなが言ってたぞ。タカネナツは、クラスで1番可愛いアイドル的存在だって」
僕が心の中でぼやくと、そのぼやきがカイトに伝わったかのように、カイトが代弁してくれた。
「か...可愛い?私が...?」
「そうだ。タカネナツ、お前がだ」
あれ?
奈津、異様に顔を真っ赤にしてないか?
「か...神野君もそう...思う...?」
ん?
なにを言っているんだ?奈津。
「ん?思うぞ?何しろヒナタの願...」
「わーわーわー!!」
あっぶねぇー...
やっぱりカイト、放っておくと口を滑らせかねないな。
僕はカイトの言葉に上乗せするようにして大声をあげ、この局面を回避した。
「な、なに?日向、どうしたの?」
「あ、あぁ、何でもない」
僕がカイトの方を睨むと、カイトは右手を顔の前にやり、悪い悪いのポーズをした。
「と、とにかく!私は今日、お米を買いに行くの!早くしないとスーパー閉まっちゃう!すぐ帰ってくるから心配しないで!」
さっきの僕に負けず劣らずの大声で、かつ早口で叫んだ奈津は、
スタスタスタスタ
ガチャ
ガチャん。
「...行っちゃった」
「...行っちまったな」
な、何なんだ...
早口すぎて何言ってんのか分からなかった...
でも、なんか逃げるように出てったな。
僕とカイトの間に静かな時間が5秒ほど流れる。
しびれを切らした僕が、カイトにあのことを切り出す。
「...そういえばカイト、お前なぁ...」
「悪いって謝ったじゃん。つい口が滑っちまった」
「はぁ...注意してくれよ」
「分かってるって。それはそれとして、タカネナツを追わなくていいのか?」
「何で?」
「さっき自分で言ってただろ?夜のこんびにやすーぱーはふりょーの巣窟だって。ふりょーが何なのかは知らないが、話の内容からして悪いやつだってことは分かったからな」
そうだ。
さっきの奈津の大声早口に驚いてつい行かせてしまったが、早く追わないと...!
不良が奈津のような美少女を見過ごすはずがない。
「カイト、行こう」
「そうこなくっちゃな」
僕はカイトを連れて、玄関を飛び出した。
☆彡
僕の家から近くのスーパーまでの時間は徒歩5分といったところか。
僕達が家を飛び出した段階で、奈津が出てから3分は経過していた。
間に合え...!
僕は走りながらただひたすらにそう思っていた。
スーパーに着き、見渡すと...いた!
奈津の姿がそこにはあった。
あったのだが、案の定、どっかの高校の制服をだらしなく着た不良グループに囲まれていた。
「おいおい...まぢですか...」
停まっていた車の陰に身を潜めながら小さな声で話す僕たち。
「あれがヒナタの言っていたふりょーか?」
「そうだな」
「助けるのか?」
「そりゃ、助けたいよ。でも、人数が人数だ」
数えると、不良は5人もいた。
女の子の奈津は計算に入れないとして、2対5。
部が悪すぎる。
耳をすませると、奈津を囲んでいる不良グループの声が聞こえる。
「俺たちにちょっとついてきてくれればいいからさ」
「楽しいことしよーよ!」
「大丈夫!悪いようにはしないよ。ただ俺たちは君に気持ちよくなってもらいたいだけなんだ」
そんなことを言いながら、奈津を囲んでいる円がどんどん小さくなり、じりじりと距離を詰めてくる。
「や、やめて下さい!誰か、助けて!」
閉店寸前のスーパーで叫ぶ奈津の声は虚しく、やがて
「はい、つーかまーえた!」
「きゃ!」
不良グループの1人が奈津の細い腕を掴みにかかった。
「おい」
僕がその光景に見入っていると、後ろからカイトの声が聞こえた。
「今じゃないのか?助けるタイミングは」
「え?でも...」
「でももへったくれもあるか。お前がタカネナツを想う気持ちってのは、あんなふりょーどもにも勝てねぇのか?」
そうだ。
カイトの言う通りだ。
このまま奈津を助けられなかったら、それこそ僕の願いは潰える。
僕の想いはそんな半端なものじゃなかったはずだ。
「...分かった」
僕はカイトに小さく頷き、不良グループの方を見る。
そして、僕は車の陰から身を乗り出し、彼らに近づく。
「...!日向!」
いち早く僕の存在に気づいた奈津が叫ぶ。
その声に反応し、不良グループが一斉に僕の方を睨む。
そしてその中の1人が声を張り上げた。
「あぁん?なんだてめーは」
なんだてめーは...か...
こういう時、漫画とかアニメの主人公なら、キメ顔でカッコいいセリフを吐くんだろうが、僕にはそんなキメれる顔も、カッコいいセリフを吐けるキャラも備わってない。
だったら、今ある奈津に対する僕だけの特権を使うだけ。
僕の特権、それは、
「僕ですか?その女の子の、ただの幼馴染ですよ」