未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「そしたら?」

「否定しなかった」

「え……?」


それじゃ、あの噂は真実っていうこと……?

一瞬、周りの音が遠退くぐらい頭が真っ白になった。


だけど、すぐに「でも」と渡先輩の声が耳に届いて何とか意識を留めた。


「肯定もしなかった。というか、私が答えを聞きたくなくて話そうとした大輝を止めたの」


なんだ……そういうことか。

心底ホッとしてる。
噂の真実が分からず終いだけど、その方が肯定されるよりもマシだと思えた。

でも、もし渡先輩が止めなければ葉山は何て答えたんだろうって気になるのは確かだ。


「聞いてもいい?私が手紙を抜き取ってるって大輝に言った?」

「その、言いそうにはなりましたけど未遂というか……はっきりとは言ってないけど勘付かれたかもしれません」

「なんで言わなかったの?言ったら大輝は私から離れて自分のところに戻ってきたかもしれないのに」

「葉山に知られたくなかったからです。葉山はちゃんと渡先輩を選んで付き合ったんだと思うので……そんな告げ口みたいな惨めなことしても意味がないし……」


今はこんな正論っぽく言ってるけど、あの時はもっと皮肉れた考え方をしてた。

小ちゃい小ちゃい意地みたいなもの。


「知られたくなかったから、か……私なら多分すぐに言ってた。綾音ちゃんみたいに強くないから」

「私は強くなんかないです。弱いから何も出来なかったんです。文通が途絶えても、いくらだって方法はあったのに行動に移さなかったのは私です。人のせいにばかりして、私は被害者ヅラして……私こそ卑怯なのかもしれません」


葉山が渡先輩を選んだことに納得してなかった。

渡先輩は卑怯なことをしたのにそれに気付けない葉山も葉山だって。

でも違う。

渡先輩はちゃんと気持ちを伝えた。
それに葉山が答えた。

それだけのこと。

渡先輩は卑怯でもなんでもない。

私こそ、葉山が好きなら行動に移すべきだった。



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