狼少年、拾いました。
 目で追えないほどそれは俊敏に動き、姿を現したと思った次の瞬間、ゼーラは自分の腕を掴んでいる男の悲鳴を聞いていた。

 何がどうなっているのか、父や叔父、それに自分は今無事なのか、状況を把握する暇もなく、辺りには生臭い匂いと静けさが粘りつくように充満した。

 東の空がほんの少し白み始めた。

 そして、突然現れたそれの輪郭をよりはっきりと浮かび上がらせる。

 どうやら人間…のようだ。

 息が大きく上がり、薄明かりの中でも肩が上下しているのが分かる。

 「怪我は……ねぇのか……。」

 男の、聞き覚えのない響きのある声が耳に届いた。

 だが顔は見えない。
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