狼少年、拾いました。
 「ないわ。けどあなた怪我してるんじゃ……?」

 顔が見てみたい。

今まで経験したことがないほど、胸が高鳴っていた。

 「ゼーラ!」

 彼に近づいて、持っていた灯りをかざそうとすると、父が見知らぬ者から庇うようにぎゅっと腕を回してきた。

 「その気があるんなら私達もとっくにやられてるわ、大丈夫よ。」

 やや強引に父の腕を解かせて恩人の方を見る。

 「あのお名前は……?」

 再び灯りをかざして顔を見ようとしたが、布でほとんどの部分が覆われていて見えなかった。

 「いや、いい。」

 そんなゼーラに彼は辟易するように去ろうとする。

 慌ててゼーラは荷をまさぐり、目当てのものを掴んだ。

 「じゃあせめてこれ、ちょっとだけどお礼です。」

 少しのあいだそれを受けとるか迷っていた彼だったが、ぱっと手に取ると素早く身をひるがえした。

 そしてそのまま、朝霧へ飲み込まれるように彼は消えていった。
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