次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「直人こそ、どうなの? 人には聞いといて。直人は」

 そこで言葉を詰まらせる。直人と視線が交わって、射抜くような眼差しに声が出なかった。本気で知りたいわけではないが、なんとも自分だけ過去の恋愛のことを語ったのが気まずくて、居た堪れなかった。

 直人は、どんな恋愛をしてきたんだろうか。その果てに、こうして私と結婚する羽目になって。

 いきなり、回されていた腕に力が込められて直人が立ち上がった。見下ろしていたのが見上げる形になり、立場が逆転する。

 元々の距離が距離だっただけに、十分に近くて私の心臓が勝手に煩くなる。怒らせたのだろうか、質問のことを撤回しようとしたところで、前触れもなく唇が掠め取られた。

「……朋子と間接キスがしたくなった?」

 目を閉じることもなく、大真面目に尋ねると、直人は至近距離を保ったまま眉間に皺を寄せる。

「どうしてそういう発想になるんだ」

「え、だって」

 そこまで言うと、再び唇が重ねられる。今度は思ったよりも長くて私は瞳を閉じた。かすかにレモンの味がして甘い。胸が苦しくなる。この流れについていけない。

「っ、直人は、どうして私にキスするの?」

 唇が離れてから、この前のことも含めて、私はようやく胸につっかえていたものを本人にぶつけられた。まさか、キスをしたら好きになるっていう理論をまだ真剣に信じているのだろうか。

 直人は私の頬に優しく触れた。思ったよりも大きくて温かいことに今更ながら驚く。
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