次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 それから、私の中では封印していたものの、なんだかんだで久々に観た映画にすっかり夢中になってしまった。エンドロールとなり、どっと疲れが押し寄せてくる。映画三本を立て続けに観るよりも濃い疲労感だ。

「直人、どこでこれを知ったの?」

「色々情報があって。まさか晶子が女優デビューをしていたとは」

「後にも先にもこれだけだから!」

 恨めしげに直人に尋ねると、彼は平然としていた。この映画では泣き所がなかったので、いつもの余裕のある表情だ。

「晶子は、おばあさんに大事にされていたんだな」

「直人は違うの?」

 さらり、と尋ね返してすぐに後悔した。直人の複雑な家庭環境はこの前、聞いたばかりだというのに。しかし直人はさして気にしない感じで続けた。

「よく、社長の孫だから甘やかされて育てられたんだろう、なんて言われるけど、じいさんは俺には厳しかったからな。社会人になって、そのまま会社に入ろうとしたら『社長の孫という肩書きのあるお前が、この会社の中だけで成長できるとも思えん!』とか言われ、知り合いの同系列の会社入社することになって」

「え、わざわざ他所の会社に!?」

「そう。経営のノウハウはじいさんから叩き込まれてたけど、社会人としては他の新卒と同じだったからな。挨拶回りや営業、会議の進め方とか、上司に叱られながらも必死だったよ」

 苦笑いしながら話す直人を改めてまじまじと見つめる。正直、今の直人からは、あまり想像もできない姿だ。
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