次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「こんにちは、晶子の友人の小野頼子と申します。晶子からお話聞いてますよ」

 会ってみたい、なんて言っていた彼が現れたからか、頼子かすかさずやってきた。

「宝木直人です。いつも晶子がお世話になっています」

 それに対する直人の対応も紳士的で、大人の社交辞令が交わされた後、いきなり頼子が私の肩に両手を置いた。

「今日は彼女を一日お借りしちゃってすみません。それにしても、晶子が綺麗になって驚いたんですけど、宝木さんのおかげなんすね」

 にこっと笑みを浮かべた頼子に、直人は虚を衝かれたような表情を見せたが、すぐに笑顔を作った。

「彼女は元々魅力的ですよ。それに、この機会にこんな綺麗な彼女を見せてもらって感謝しています」

 その発言に、私ではなく周りにいた同級生たちから黄色い声があがった。頼子もぽかーんとしている。映画でもなかなかこんな台詞はないだろう。それを言って、許されるのが直人なんだろうけど。私は恥ずかしさもあって、早々と立ち去ろうと直人を促すことにした。

「幹事の方は?」

「え?」

 相変わらず、仕事仕様で尋ねられ、返答に窮した。なにも答えず、近くにいた藤沢君に視線をやると、それで直人は悟ったらしい。わざわざ私の肩を抱いて、彼の方に向き直った。

「今日は彼女が、お世話になりました」

 迫力ある笑顔に、藤沢くんは未だに状況についていけず佇んでいる。周りがざわついている中、直人はそのままエントランスに足を進めようとするので、そこで私は、もう一度、藤沢くんに向き直った。
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