次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「綺麗になってびっくりしたよ。本当、お世辞じゃなくて」

「ありがとう」

 彼も言葉を迷っているのが伝わる。もう昔の話だって笑うことができたらどんなに楽か。もし私に対して罪悪感を抱かせているなら、そんな必要はない、と伝えなければ。

 言葉を必死で探している間に、周りを見れば、ちらほらと帰っている人たちもいて、人数が減っていってた。

「二次会、行かない? せっかくだし、色々と話したいんだけど」

「私」

「晶子」

 ざわついているホテルのロビーで聞き慣れた声がはっきりと耳に届く。空耳を疑ったが、私は声のした方に体を向けた。

「直、人」

 これは夢でも見ているんだろうか。だって今日は直人は仕事のはずだ。なんだってこんなところにいるのか。

「仕事で、こっちまで来たからついでに迎えに来た」

 疑問を口に出そうとしたら、その前に答えてくれた。見れば、直人はスーツをきっちりと着こなして、髪もワックスで整えている。いつも会社で見る精悍な社長代理の顔だ。

 そういう迫力のおかげか、周りの視線を一手に引き受けている。しかし本人はまったく気にせず、私に歩み寄ってきた。

「もういいのか?」

「あ、うん。今は二次会待ちで」

 状況についていけず呆然としながら答えていると、いきなり隣に気配を感じた。
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